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2008年9月のリーマンショック以来、世界経済の風景がすっかり変わってしまった。
世界中が一斉に大不況に陥るというのは尋常な状態ではない。
こうした大きな変化の原因の一つは、異常なまでに膨れあがって破裂した金融にあることは間違いない。
金融だけでこれだけの変化が起きるはずはない。
「百年に一度」とも言われる金融危機が起きた背景には、やはり、百年に一度というような大きな経済構造の変化があるはずだ。
少なくとも二つの構造変化が思い浮かぶ。
一つは、先進工業国が一斉に少子音向齢化に直面し、金余り現象が顕著になってきたこと。
もう一つは、グローバル化を促進するデジタル技術の革命である。
どちらも世界経済の姿を大きく変えるようなインパクトを持ったものだ。
金融危機がこうした変化と深いかかわりを持っていることを本書の中で明らかにしていきたいと考えている。
この危機を超えて日本経済が元気になるためには、経済構造の変化のトレンドを理解することが重要である。
金融危機が起きたことは残念なことではあるが、この危機の先に、また違った経済の風景が見えるはずだ。
その風景を好ましいものにしなくてはならない。
そのためには、少子高齢化とグローバルなテクノロジーショックという大きなトレンドにどう対応するのかが重要であるのだ。
世界的な金融危機とはいっても、国によって直面する問題は異なる。
米国は、高度な証券化ビジネスが崩壊した新しいスタイルの金融危機に陥っている。
欧州は、新型の金融危機というよりは、かつての日本が経験したようなバランスシート不況の様相を呈している。
日本だが、金融危機というよりも、世界的な需要の減退と急速な円高の動きの中で、輸出企業を中心に企業の業績が非常に悪くなっている。
日本に限って言えば、金融危機というよりは、業績悪化不況なのだ。
製造業からサービス業への大きな構造転換という課題を抱えている。
日本の輸出企業の厳しい状況は、過去10年ほど、輸出に過度に依存してきた経済の危うさが露呈したものでもある。
この危機を通じて、輸出企業は海外へのシフトを強めるとともに、業界再編が加速するだろう。
当事者の方々は大変だろうが、日本の産業の競争力を高めることにつながるはずである。
国内では新たな内需産業を育てていかなければいけない。
そのためには、国民一人ひとりが社会のあるべき姿を模索しなくてはいけない。
政策に反映させなくてはいけないのだ。
日本はいま、重要な岐路に立っている。
「これから5年間で何をするかが日本の運命を決める」と、2008年1月に講談社から出版した拙著『大変化」の中で書いた。
今回の危機を受けて、ますますその考えを強くするに至った。
1930年代の世界大恐慌の中で生まれてきた諸々の制度が戦後の世界経済の繁栄の礎になったように、私たちもこの厳しい時代を通じて、将来の日本の豊かさにつながる仕組みをつくり上げていかなくてはいけない。
経済の動きが非常に速くなっている。
半年もたつと、経済の姿が大きく変貌してしまっている。
そうした中で経済の状況を描写する本をまとめるのは容易な作業ではない。
変化の激しい時代であるからこそ、あえてその変化の深層をえぐり出すような作業が必要であるとも考えている。
この本を読んで一人でも多くの読者が日本経済のあるべき姿について考えてくれることを願っている。
百年に一度の金融危機が世界を襲っている。
1年前に、これほどの金融危機が来ることを予想した人はほとんどいない。
2008年9月に、米大手投資銀行のRが破綻したことを転機に、金融の呈示色が大きく変わってしまったのだ。
大きな利益を上げて幕進していた大手投資銀行が軒並み経営不振になってしまった。
世界最大の金融グループであるSと、世界最大の保険会社A(A)も政府の庇護下に入った。
Aについては、Aなども含め、その保険事業の多くが売りに出された。
危機は米国だけに止まらず、欧州やアジアなど世界中に飛び火している。
世界のどこに行っても金融危機の混乱への不安の声が上がっている。
金融危機は、最初はプロの世界で起きる。
サブプライムローン(低所得者向け住宅融資)などの証券化商品を抱えたヘッジファンドや投資銀行は、そうした商品を処分しなくてはならないが、売り手ばかりで買い手が付かない状態だ。
サブプライム関連商品の価格はゼロに近いところまで下がってしまっている。
金融は互いの信用の上に成り立っているものであるが、金融危機の中で、金融機関が短期の資金を融通しあうマネー市場が機能不全に陥ってしまった。
誰も安心して市場に資金を出せないのだ。
そうした事態に対応して各国の中央銀行が大量の資金を市場に放出しているが、所詮、出血を一時的に止める止血作業のようなものである。
グローバルに回っていたマネーの動きは、為替市場にも異変をもたらした。
新興国からの資金の引き上げが起こり、たとえばアイスランドでは国内の3大銀行がすべて破綻し、国家も破綻状態である。
あれほど評価の高かった欧州通貨や資源国の通貨も急落し、結果的に、短期間で大幅の円高になってしまっている。
金融危機は次第にその影響の幅を広げている。
最初はテレビや新聞のニュースで金融危機を知った一般国民も、株価が大きく下がり始めると、入ごとではなくなってくる。
急落した日本の株価はあっという間にバブル後の最低水準を割ってしまった。
株価の下落は金融機関にも大きな損失をもたらす結果となり、中小企業の間では、融資に慎重になった銀行の貸し渋りへの警戒感が強まってきている。
「貯蓄から投資へ」という言葉に乗って投資運用を始めた個人投資家も、自分が購入した投資信託や株式の価格が大きく下がる中でなすすべもなく呆然としている。
主要国政府は異例のスピードで対応を進めると同時に、2008年11月、ワシントンでG10という10ヵ国の首脳が集まった金融サミットを開くに至った。
G7やG8という先進国だけでなく、中国、ブラジル、サウジアラビア、インドなどの新興工業国や産油国の首脳までもが集まったサミットは異例のことである。
それだけ世界の多くの国の危機感が強いという証しでもある。
残念ながら株価などの金融指標は一進一退を繰り返し、なかなか回復する兆しは見られない。
「負の連鎖」の構造
金融の動きは足が速い。
あまりに急激な金融危機の広がりであったが、私たちはもう金融危機の一番恐ろしいところを見てしまったのかもしれない。
そもそも、今回の金融危機の直接的な原因をつくったと言われるヘッジファンドや、銀行の別働隊で積極的に投資を行っていたSIV(投資ビークル)などは、消滅してしまった。
金融膨張の中で稼ぎまくっていた米系の投資銀行もすべて、他の金融機関に吸収されるか、銀行への業態転換などで生き残りを目指している。
世の中の関心も、金融危機から景気後退に次第に移りつつある。
米国を例に考えてみよう。
金融危機を受けて厳しい状態にさらされているのは金融機関だけではない。
ビッグスリーと言われる米国の自動車メーカーは深刻な経営危機にさらされている。
米国のもの作りの象徴でもある自動車メーカーが破綻すれば、地域経済へは大変な影響が及ぶだろう。
自動車は一つの例にすぎない。
住宅価格が低迷する中で建設産業にも不況風が吹いている。
景気悪化で雇用にも深刻な影響が出始めている。
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